私が、長年勤めたSIerを退社し、初めて社内SEとして非ITの事業会社に転職した時に、その会社の役員に以下のことを言われました。
SIerとして顧客のためにシステムを作っていた私には、この考えが非常にわかりやすく、長らくその考えを行動指針に据えて働いてきました。
時が経ち、その会社の情シスの部門長になり、その後別の会社に転職して、同じく情シスの部門長になりました。
このような経歴を経て、辿り着いた結論は以下です。
「顧客は社員」という考え方自体が間違っているとまでは言いませんが、この考えを行動指針に据えてしまうと、私の考える「あるべき情シス像」とはマッチしないことに気付きました。
今回の記事では、「社内SEのお客様は本当に社員なのか?」について、持論をまとめていきます。
社内SEの顧客を社員と考えてはいけない理由
当項では、社内SEの顧客は社員と考えてはいけない理由を紹介していきます。
尚、当記事で呼称する「社内SE」は、非IT系事業会社の「情報システム部署(情シス)」と同じ意味になります。
情シスと他部署社員は同等である
亡くなられた三波春夫さんは「お客様は神様です」と例えたと言われていますが、この言葉は後に大きく歪曲して広まりました。
詳しくは以下のリンク先をご確認ください。
このリンク先の文章の一部を抜粋します。
三波にとっての「お客様」とは、聴衆・オーディエンスのことです。また、「お客様は神だから徹底的に大事にして媚びなさい。何をされようが我慢して尽くしなさい」などと発想、発言したことはまったくありません。
現在の国内においても、「お客様は神様です」のフレーズが誤った解釈で広く浸透しており、お客様は神様と同等であり、尊い存在である。
顧客の言うことは絶対であり、顧客には尽くさないといけないといった偏った考えが根強く残っています。
そのため、社内SEの顧客は社内の社員と定義してしまうと、社内SEは社内におけるヒエラルキーの最下層として扱われ、社員の要望には服従し、無理難題を押し付けられることも当然といったイメージを持たれてしまいます。
また、顧客である社員の要望や依頼を自部署の業務や作業より優先して対応することが当然となり、社内SE自体の業務が滞り、業務過多に繋がります。
社員が顧客なら、社内SE側の都合で無理を通すことはできなくなります。
当然ですが、「社内SEと他部署の社員の立場は同等」であり、どちらが上や下といったものではありません。
その意味でも、社内の社員たちを顧客と見立ててはいけないと言えます。
情シスの顧客は会社の顧客である
ここ数年で良く耳にする言葉として「DX」があります。
DXは「Digital Transformation」の略称であり、デジタル技術を活用し、その企業や業種などの既成概念や枠組みを覆すような変革をもたらす取り組みを指します。
昨今の「DXブーム」を受けて、多くの企業でも「DX推進」系の部署を創設し、DXへの取り組みを行っています。
「社内SEの顧客は社員」といった視点で働く場合、情シスは社内の社員の方を向いて仕事をすることになります。
社内SEを仮にサービス業と捉えた場合、「顧客である社員に対してサービスを提供することが仕事」といった発想です。
ただ、実際にはサービスの提供対象である社員たちの先には、会社の「本物の顧客」がいます。
その本物の顧客を意識せずに社内だけを見て仕事をしているだけでは、社内システムの運用は出来ても、事業に変革をもたらすようなDXは行えません。
DXといった大きな変革だけではなく、業務のデジタル化や自動化、システム化などの、日頃から求められる改善活動などにおいても、社員の業務の先には本当の顧客が存在すると意識し、その本当の顧客の満足度を高めたり利益をもたらすことを目的とすることで、情シスや社内SEの役割や価値は大きく変わってきます。
「社内SEの顧客は社員」と考えている限り、価値のある大きな仕事は遂行できません。
「何処を向いて仕事をするのか」は非常に重要です。
給料を支払うのは社員ではなく社長である
本来「顧客」は、金銭を対価に自社の製品やサービスを購入したり利用する存在です。
顧客が自社の製品やサービスを購入してくれるから、その企業は存続できています。
「社内SEの顧客は社員」と見立ててしまうと、社内SEとして社内の社員に提供した労働力の対価として、社内の社員が給料を支払ってくれないと矛盾します。
サービスだけを一方的に提供してもらい、その対価が発生しない関係性はボランティア活動であり、「賃労働」とは呼びません。
しかし、社内SEとして企業に勤めて働くことで、当然給料は支払われています。
この給料は誰が払ってくれているのかと言えば、その企業の経営者です。
「顧客はサービスや労働力の提供を受けるかわりに金銭を支払う存在」だと定義した場合、「社内SEにおける顧客は勤めている企業の経営者である」と言えます。
よって、社内SEは社内の社員のために働いているわけではなく、その企業の「経営者のために働いている」わけです。
そのことからも、「社内SEの顧客は社員」という考え方は適切ではないと理解していただけるかと思います。
「社内SEの顧客は社員」と考えることによる弊害まとめ
これまでの記事で書いたように、「社内SEの顧客は社員」と見立ててしまうと、色々と問題があることがわかりました。
問題点や弊害をまとめると以下です。
- 企業内における社内SEの立場が弱くなり雑務で忙殺され無理難題を課せられる。
- 近視眼的な仕事の仕方になり、IT戦略やDXなどの大局を見た役割が務まらない。
- 誰のために働き、誰の指示や要望を優先するべきかを見誤ってしまう。
社内SEは、企業のIT戦略を担い、ITを活用して企業の事業を前に進める大事な役割があります。
また、今や企業の経済活動において、業務のデジタル化、自動化や省力化は同業他社との競争において非常に重要な要素の一つですが、その取り組みも実際に進めるのは社内SEです。
更に、昨今では情報システムのセキュリティも非常に重要であり、情報システムにおけるセキュリティのルール策定やその運用を管理するのも社内SEの仕事です。
これらの役割を担うにあたり、社内の社員を顧客として見立てていては、とてもじゃないですが務まりません。
もしこの記事を読んでいる貴方も「社内SEにおける顧客は社員」と考えているようなら、貴方のためにも、延いては会社のためにも、その考えを改めるべきです。
社内SEの仕事は「IT介護」と呼ばれるような、ストレスが多くやりがいは少ないといった夢の無いものではなく、ITのプロフェッショナルとして、ITを利用して企業に付加価値を提供し、面白くてやりがいがあり、企業のなかにおける花形の仕事のはずです。
今回の記事が、社内SEとしての仕事の向き合い方や仕事の仕方を好転するきっかけになれば嬉しいです。
長々と読んでいただきましてありがとうございました。
それでは皆さまごきげんよう!